活動開始
著者:るっぴぃ


“Vous vous appelez comment?”

 なんで僕はこんなことになってしまったんだろう……。
 目の前には見知らぬ少女。
 耳にしたのは見知らぬ言語。
 周りに救援は皆無。

 何で僕はこんなことになってしまったんだろう……。
 はあ……。

    *

 部屋に帰ると既に飛鳥は帰ってきていて、上段で筋トレをしていた。ところで鉄アレイに35kgと書いてあるのは気のせいか?
 僕はそんなことにすら疲労を覚えながらカバンを置き、だらしなくも床に横になる。
 ひんやりとした木目がほてった体に心地いい。
 麦茶でもあればいいのだが、この部屋に冷蔵庫はないし、冷えてなければおいしくもないので我慢することにする。

「さっさと帰ってきた俺よりずっとお疲れだな。全力疾走なんてして、短距離選手にでもなるつもりか?」
「ああ、ちょっと厄介な人と関わり合いになっちゃってね。大変だったよ。つうか僕が陸上をやらなさそうなことを一番よく知ってるのはお前だったよな?」
「で、その女と何があったんだ?」
「いや、別にないし連れまわされただけ……」
 ふと言葉尻が引っかかって言葉を止める。あれ? 女?
「――ってそりゃそうだよな、お前の顔の広さは一流だ」
「くかか、わかってくれてうれしいよ。お前が女に引きずりまわされてあっちこっちを訪問していたってのは少なくても5つ以上、それだけの目撃証言がありゃあ信じるしかないよな」

 そこで飛鳥は一度大げさに息を吐くと、新しいおもちゃを見つけた少年の笑みで尋ねてくる。

「で、何をやってたんだ?」
「何でもないよ。引っ張り回されただけ」

 実際、あちこちの部活を回って一方的に部員を貸せと言っては断られ続けただけだ。
 そこに一切の虚実や、あるいは叙述トリックなどの潜む要素はない。
 そんなことの為に数時間も無駄にしたというのはなかなかに悲しいことだ。ネットでもやって心を癒そう。
 僕がPCの電源を入れるとき、飛鳥がぽつりと呟くのが聞こえた。

「竜崎? まさか、な……」

 僕はそれを耳にして思う。
 ――頼むからそういう時こそ冗談のようにからりと笑ってほしい。
 男子寮の夜は更けていく……。

    *

「起きなさい、渡貫裕貴。すぐに出発するわよ」

 目覚めて最初に聞いた声は逃げることも許さないとばかりに至近距離から聞こえてきて、土曜の朝だというのに僕はうんざりした気分で起きだした。
 竜崎はどこにとも、なぜとも、何をしにとも言わずに(ついでに言うと飛鳥の方は見もしなかった)スタスタと歩き去ってしまった。
 ついてこいと……?
 てか、ここ男子寮なんですけど……。

    *

「うーん、ちょっと難しいわね」

 そう答えたのは白衣を着た女性だった。
 彼女は僕たちの一つ上にあたる2年生の躑躅森夏音さんで、科学研究部の部長と紹介された。
 ちなみに漢字に関しては後で名簿を調べたものであることを追記しておく。

「そうか……」

 で、こっちで落ち込んでいるのが“自称‘委員会会長’”こと竜崎吉能嬢。
 こいつも流石に何件も回ってことごとく沈没していたらそのうち諦めるだろう。

「手伝ってあげたいのは山々なんだけどうちとしても部員の勧誘中なのよね……」
「そうか……、なら仕方がないな……」

 その時廊下の反対側から男子生徒がやってきた。
 確か1年3組の泉君、だったかな。
 新聞部としてのパイプ作りとして各クラスを回った時に見かけた気がするんだけど。

「悠真。ちょっと来なさい」
「部長……。今日こそ退部させてもらいます。それじゃ」
「却・下。ってこら、にげるなー!」

 うん、騒がしくなってきた。じゃあこの隙に……。

「裕貴、お前も逃げるな」

 すぐに見つかった。
 だけど僕はその声を無視して走り出す。
 冗談じゃない、これ以上こき使われてたまるかっ!

    *

 屋上には既に泉君が来ていた。
 多分僕と同じで、屋上が逃げる先としてはちょうどよかったから来たのだろう。

「どうも」

 僕が挨拶をすると向こうはこちらに気がついていなかったようで気がつくまで少しかかった。

「……あ、ああ。さっき部室の前にいた――」
「ええ、新聞部1年の渡貫裕貴です。科学研究部の泉さん、ですよね?」
「……俺はあの部長に強引に入部させられただけだよ。ん? てことはあの子も新聞部なの?」
「いや、僕も連れまわされてただけです。お互い、苦労しますね」
「本当だよ……」
 そういって僕らは笑いあう。

「あら、ここにいたの。ほら、早く行くわよ悠真」
「お前も早く行くぞ。特別活動支援室6だ。人を待たせているんだ、早くしろ」

 気づくと真後ろに二人が立っていた。なぜか、音も立てずに。
 というよりも若干殺気が混じっている。
 瞬時に腕を取られた僕と泉君は、二人に腕を引きずられながら連れて行かれる。
「じゃあ詳細はさっき言ったとおりだから。彼女にも話は通してあるわ」
「ああ、ありがとう。礼はまた今度させてもらう。裕貴が」
「なんで僕が!?」
「そして俺は科学研究室に連れて行かれるんですか……」
「当たり前じゃないの。部員なんだから」
「そうだ、お前も会員ならもっとそれらしくしろ」
『入った覚えがありません!』

 僕らの騒ぐ声は5分ほど続いて疲れきって止まった。

    *

「ああ、そうそう。ちょっと用事があるから先に行っててくれ」
「ああ……。そうか……」

 僕はぐったりと疲れ切った声でそう答えると、傍目から見たら確実に肩を落として歩いているように見えるんだろうなあ、としか思えないスピードでゆっくりと歩いていく。
 亀のような遅い歩きで、特別活動支援室6に着いた時も竜崎は追いついてこなかった。
「はぁ、何処で油売ってるんだよ」
 そうはいってもいつまでもここでこうしているわけにはいかないので扉を開ける。すると、

“Vous vous appelez comment?”

 眼と耳が点になった。

 確認。
 目の前にいるのは金髪碧眼のいかにもといった様子の外国人。
 聞こえた言葉は日本語でも英語でもない未知の言語。
 応援はいつ来るかもわからない。
 ……。
 僕に、どうしろと?

「ああ、日本語でないと駄目でしたわね。カノンが話せたので油断していましたわ。……貴方、お名前は?」

「って、日本語喋れるんですか!?」
「当たり前ですわ。そうでなければ日本に留学なんて考えませんわよ」
「留学……?」
「ええ、私は近々1年6組に編入する朽木・ルネ・朽葉(くちき・るね・くちは)。ルネとお呼びなさい。貴方は?」
「え、わ、渡貫裕貴です」

「そして私が竜崎吉能だ!」

 タイミングを見計らったかのように竜崎が扉をたたき開けて登場する。
 僕はぽかんとするしかなく、ルネさんは「面白い人ですわね」と笑っている。
 歩みは迷いなく、眼は不敵に輝いて。
 そして竜崎は、威風堂々と教壇に立つと学校中に響き渡るかと錯覚するような声で宣言した。

「これより第1回、‘委員会’会議を開催しする!」

 ……いやだから僕はまだ入ってないって。

    *
    *

Xのブログ

今日は本当に散々な一日だった。
土曜なのに一日連れ回されるというのはかなり疲れる。
その上ろくな結果も出ないときたら尚更だ。
まあ一つだけあるっちゃあるんだけど……。
いいや、今日はもう……寝よう――



あとがき

まずは快くキャラクターの使用を許していただけた高良あくあ様にお礼申し上げます。いろいろとご迷惑をおかけいたしました。
というわけで第3話です。これからはそろそろ本格的に調査に乗り出していってくれるはずです。
今回は少ししかでてきませんがルネも今後活躍してくれるはずです。
それではまた第4話でお会いしましょう。



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